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日本推理作家協会理事長人事と笠井潔

 投稿者:園主 & ホランド  投稿日:2009年 5月24日(日)12時21分17秒
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  園主  一昨日(23日)の読売新聞朝刊に『東野圭吾さん、日本推理作家協会理事長に』ってあったな。大沢在昌理事長の任期満了にともなって21日に理事会が開かれ、新理事長に選出されたそうだ。

ホランド  東野さんは、いま一番の売れっ子作家だし、カッコいいし、いろんな意味で適任なんでしょうね。もともと本格系の作家だけどが、いまは広くエンターテインメントの王者といったところですし、『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞し、ガリレオシリーズはドラマも大ヒットして、一般の認知度も極めて高い。
 こないだ読んだ、佐野洋さんの『ミステリーとの半世紀』にも、協会の理事長には対出版社的な力が求められるというようなことが書かれていましたから、やはり協会を代表して、出版社に物申せる人気作家でないといけないみたいですね、かつての乱歩や清張みたいに。

園主  それでも、昔なら中島河太郎とか山村正夫といった古株功労者が理事長になれたんだろうけど、この出版不況の現状からすれば、そんな余裕はもうないだろうな。
 それにしても、笠井潔ファンとして見るならば、今回の理事長人事は、一昨年だったかの「『容疑者X』論争」(「本格」論争)を、日本推理作家協会の主流派が、遠目にどう見ていたのかを、はっきり示したも同然のものだと思うな。まあ、当時だって、理事長を辞めたばかりの逢坂剛が、論争そのものを、下らないとするような短文を公表していたから、その周辺がどんなふうに考えていたかは、容易に推察できたんだけどな。

ホランド  あの、本格村の主導権争いの内紛とも言える不毛な論争に対し、冷ややかな傍観に撤して巻き込まれなかった東野さんに、協会理事会も、ある種の頼もしさを感じ、信頼を深めたというのは確かでしょうね。

園主  かつて『理屈なら何とでもつけられる』と嘯いたことさえある理論家笠井潔の土俵にノコノコと上がって、不用意に論争をやるなんてのは、愚の骨頂だからね。ただ、それでも、自分の小説を「環境管理社会の小説的模型」なんて言われ、弱者を食い物にする新自由主義の権化的な作品だなんて非難されれば、普通なら心穏やかではいられないし、文句のひとつくらい言いたくもなるのが人情だ。

ホランド  それを無視黙殺しきることで、「格」の違いを見せつけた東野さんの賢明さは、笠井さんの口先政治屋ぶりを疎んじていた人たちには、頼もしいものと映ったでしょうね。

園主  それに、このところの協会の理事長は、北方謙三・逢坂剛・大沢在昌と、冒険小説・ハードボイルド系の人が続いたから、基本的には本格系と言ってよい東野さんが理事長になるのは、バランス的にも好ましいということになるだろう。
 そんなわけで、本格ミステリ業界内はもとより、ミステリ業界全体の中ですら、笠井潔の立場は、片隅に追いやられつつあると言っていい。少なくとも、笠井潔の取り巻き作家や評論家たちは、今回の理事長人事にある種の脅威を感じているだろう。でなきゃ、単なる鈍感バカだ。

ホランド  となると、笠井さんの一の子分と言ってよい法月綸太郎とか小森健太朗は、どうするんだろう?

園主  今さら「君子、豹変す」というわけには行きにくいだろうけど、綾辻行人、我孫子武丸、二階堂黎人あたりなら、法月や小森のように笠井と公に徒党(探偵小説研究会)を組んでるわけじゃないから、じわじわと距離をおくくらいのことはするだろうな。綾辻なんか、笠井の探偵小説論について「批評の面白さとは、こういうことだったのか」なんて賛嘆の言葉を寄せてた、笠井理論の受益者のくせに、「『容疑者X』論争」については、賢く沈黙したままだしな。――ま、公には、ってことだろうけど。

ホランド  つまり、園主さまが以前から指摘なさっていた、笠井丸からの鼠たちの脱走が、さらに加速するだろう、ということですね?

園主  当然そうなるだろう。笠井丸の沈没はもはや明らかで、いくら笠井さんが意地なって頑張っても、もう手遅れだよ。ここで意地でも巻き返しを図ろうと、内部の結束固めなんかやったら、良くてさらに仲間を減らすだろうし、うまく結束を固めても、その行く末は「連合赤軍・総括殺人事件」の再演でしかないだろう。実際、『容疑者Xの献身』を高く評価した探偵小説研究会所属の身内評論家に向けた笠井さんの非難は、本格ミステリ界における革命戦士たるの自覚を欠いた者たちへの「総括」そのものだったからね。まあ、ミステリ業界なんて、所詮は口舌の徒の世界だから、笠井さんに何と非難されようと嫌な気分を味わうだけなんだけど、新左翼セクトの理論家だった40年前の笠井さんだったら、矢吹駆の学生運動時代を描いた『熾天使の夏』にも描かれていたような、文字どおり暴力的なリンチ総括も辞さなかっただろうな。なにしろ「自分も彼ら(連合赤軍メンバー)と同じようなところにいた」んだという衝撃によって、笠井潔は転向し、『バイバイ、エンジェル』『テロルの現象学』の作家・評論家になったと、自身なんども語っているんだから。つまり、「『容疑者X』論争」の時に「昔だったら、総括(リンチ)ものだぞ」くらいのことが、笠井潔の頭を過っていたとしても、なんの不思議もないだろうということだ。

ホランド  結局笠井さんは、自身の過去を『バイバイ、エンジェル』や『テロルの現象学』を書くことでは、総括しきれなかったということですね。だから、実際の行動では、同じことを形を変えながら繰り返してしまう。

園主  人の本質的な部分、骨がらみの性格、言い換えれば「業」とでも呼ぶべきものは、頭の良さなんかでは乗り越えられない。だからこそ、宗教は「帰依」することを求め、自我への執着を禁じたんだろう。自分の頭で考えて解決しようなどというのは、ある意味では度しがたい傲慢。自分の目だけで、自分の目を見ることが出来ると本気で主張するたぐいの、傲慢なんだからな。

ホランド  まあそれでも、神や仏に頼らずに、知性一本で切り抜けようとするのが、哲学や思想なんでしょうけどね。

園主  ともあれ、落廃の憂き目を見たも同然の笠井潔を、今になって賢しらに、陰であれこれ言うだけなら、そこらのミステリ作家や評論家にだって出来ることだろうから、ここでは「日本一たくさん『バイバイ、エンジェル』の初版本を持っている、古い笠井潔ファン」として、あえて無理にでも、笠井潔を擁護してみようかな(笑)。

ホランド  そんなこと出来るの?(笑)

園主  例えばだな、東野さんは対出版社的に顔が利くというけど、笠井さんだって、文春や新潮や講談社といったメジャーどころだけじゃなくて、朝日新聞出版や作品社、原書房や南雲堂とかにも、顔が利くぞ。笠井さん自身、ホントにいろんな出版社から本を出してるし、だからこそ探偵小説研究会所属の身内評論家に仕事を分け与えることで、政治的影響力を行使することも出来たんだからな。――ああ、そうそう情況出版とかもあったな。

ホランド  たしかに、笠井さんと東野さんの本は、売れ行きを比べるのも申し訳ないような感じですけど……。でも、だいたい笠井さんの本って、ほとんど初版どまりでしょ? 特に評論書は。それに、朝日新聞出版以下、顔が利いてもしょうがないとこばかりですよ、少なくとも文芸としての営業的には(笑)。そのあたりだったら、二階堂黎人とか日下三蔵なんかのほうが顔が利くんじゃないですか。少なくとも、営業を考慮した企画を持ち込んでくれる。

園主  そこまで言うかあ……。たしかに笠井さんは、顔は利かないかも知れないけど、押しは強いぞ!

ホランド  って言うか、そのあたりの弱小出版社から出てる笠井さんの本って、みんな笠井先生から出版を押し付けられた本ばかりじゃないですか。それだったら、日下さんのミステリアンソロジーや二階堂さんの企画本のほうが、ふつうに売れるでしょう。『探偵小説は<セカイ>と遭遇した』とか『探偵小説論』とか、まだ続いてる『ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つか?』とか、古いところでは作品社から出した『笠井潔伝奇小説集成』とかなんて、もう出すだけ出版社は損するって感じですけどね〜。ボクだって、そんなの全部は買ってないし、そこまで全部、定価で買って読んだり蒐めたりしてる人なんて、園主さまと、はらぴょんさん以外、見たことも聞いたこともないですよ(笑)。

園主  そうかも知れないけど、笠井さんが売れない評論書の刊行を、弱小出版社に押しつけているなんて、そんな見てきたようなことを言わないで欲しいな。
 具体的に書名をあげると、いかにも説得力があるけど、たしか笠井さんも、限界小説研究会の評論アンソロジー『探偵小説のクリティカル・ターン』(南雲堂)に書いてたとおり、売れなくたって出す意義のあることを認めた、有意の編集者が出したのかも知れないじゃないか。

ホランド  園主さまだって、さっきは自分で『笠井さんは、顔は利かないかも知れないけど、押しは強いぞ!』って、言ったじゃないですか(笑)。

園主  そこはそれ。――じゃなくて、それは、つい口が滑っただけで、そんなこと、これっぽっちも思っていません!

ホランド  ぶっちゃけ言っちゃうと、有意の編集者というよりも「主体性がなく、押し切られやすい編集者」というところでしょうかね。

園主  ボロクソだなあ。でも、笠井さんをはねつけるには、「人を人とも思わない」と作家から総スカンを食らうくらいの、骨のある反時代的な編集者が実権を握らないとダメだろうな。毒をもって毒を制す。でも、それはそれで、弊害もあるだろう。だけど今どき、そんな編集者はいないんじゃないか。

ホランド  もともとは東野さんとの比較(?)の話だったのに、東野さんはどっか行っちゃいましたね(笑)。

園主  大江健三郎と渡辺淳一の影響力を、単純に比較できないのと似たようなものだと思ってたもれ。

ホランド  南雲堂とか作品社とかの出版社名が出てくる時点で、笠井さんの負けという感じですけどね(笑)。

園主  弱小出版社には弱小出版社の使命がある、と思ってたもれ。

ホランド  さすがの東野さんも、そのあたりの出版社には、顔が利かないだろうなあ(笑)。

園主  利かない。売れっ子になる前だって、東野さんには縁がなかった。その点、あちこちに幅広く顔の利く笠井さんは、それだけで偉い!

ホランド  まあ、笠井さんで問題なのは、矢吹駆シリーズとかの、売れそうな小説は大出版社(文春、講談社)へ、売れそうにない「志の高い本」、つまり評論書なんかは弱小出版社へと、意識的に振り分けているところでしょうね。このあたりは、なるほど大江健三郎的と言えるかもしれません。そういえば、笠井さん、大江健三郎が好きですよね。

園主  ああ、それは気がつかなかったな。評論は売れないから、弱小出版社に押し付けているというのはわかってたけど、たしかに小説でも、出版社の大きさによって、力の入り方が違うよな。ホントに政治屋って、嫌になるほど力関係に露骨。「弱きを助ける」っていうような、男気(侠気)のかけらも無い……。
 残念だけど、嘘八百でも並べないかぎり、笠井さんの自業自得とも言うべき現状を擁護するのは、私の力量をもってしても無理なようだ。後は、笠井さんが自家宣伝したとおり『自業自得の潔さ』(『道』初版本あとがき)を示して、自身の本質的な問題点を直視剔抉するしかないんだけど、それが絶対にできない人なんだという現実を直視しちゃったところが私の悲劇であり、その悲劇のゆえに、誰よりも熱心な笠井潔ファンである私が、あえて笠井潔葬送派として剔抉係を演じなければならないことにもなっちゃったんだよなあ。

http://homepage2.nifty.com/aleksey/LIBRA/index.htm

 
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