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『城塞』の「こわれてしまうんだ!」の意味

 投稿者:hirokd267  投稿日:2017年 5月 1日(月)23時38分11秒
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  新国立劇場の安部公房原作「城塞」の公演が終わりました。私は4月21日に観ましたが、基本的に安部公房の脚本に忠実なせりふと、深い解釈に基づく、そのうえでの創造的な舞台構成と、5人の俳優さんの熱演、に感動しました。その主な感想はtwitterで#城塞を付けて述べてきました。

そのラストシーンは踊り子役のストリップシーンと急激な背景展開でクライマックスを迎えつつ終わる。
その熱情に流されて見逃されやすいが、そのストリップシーンはそもそも息子である「男」が仕掛けたものである。「男」は抑圧されてきた父親に、仕組んだ劇の種明かしをしたり、自分の方がより事業を発展させた、などと追い詰めていく。そして最後に踊り子にストリップをさせて父親にそれを見させ、「さあ、お父さん、こわれてしまうんだ! こわれてしまうんだ!」と叫ぶ。父親はそれから目を逸らせ逃げようと身もだえる。男もそれまで手を触れることさえ出来なかった踊り子にキスをし、ストリップの腰をのぞき込み、壊れてしまうのだった。

ここでなぜ「こわれてしまうんだ!」と父親に見せつけ、父親はなぜそれから逃れようとするのか?
ストリップを見ることで何が壊れるのか?それがどんな意味を持つのか?

私は1968、9年の学生のころ、友人たちを語らって「平和を考える会」を開いていた。そのころの私の前の戦争への関心事は「あの時代にいかにして戦争に参加しないで自分を保持できるか」ということで、「次の戦争には参加しない」ということでは他の者も一致していた。2歳下のYはあるとき「感情とか欲望を抑えてはいけない」と言ったが私はそこまで共感できなかった。もう1歳下のMは後に団塊の世代と呼ばれる年代だが、私に「ストリップの話になるとスッと身を引きよる」と言うくらい倫理的なこだわりは持たなかった。

さてこのYの言葉だが、彼は「欲しがりません。勝つまでは」という掛け声に「欲望を抑えられた」のではなく「欲望を我々が抑えたのが戦争を推進した」と言うのだ。それをすぐ受け入れられなかった私には倫理的な殻があった。Мの言葉にも私の殻を指摘する意味があった。

「こわれてしまうんだ!」はこのような倫理的な殻とそれに守られた建前と世間への同化、すなわち心の「城塞」を破壊せよ、という叫びであり、ストリップを見る、という欲望によってそれをなし、欲望を解放することによって戦争への力を無にすることが出来るはずだ、という叫びであろう、と思う。

もちろん「城塞」は自分たちの心にあるだけでなく、国家という城塞をも意味することは、ラストシーンの日の丸と岩壁が象徴し、それに向かって裸の踊り子が立ち向かう、それによってその城塞も破壊されるだろう、というのは、この劇の演出が安部公房の意図を解釈し、表現しえたものであると考えます。
 
 
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