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『人間そっくり』(2)精神病院のトポロジー

 投稿者:hirokd267  投稿日:2018年 3月30日(金)23時13分18秒
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  さて【20】節の精神病院である。気がつくと主人公はここに入れられて、「狂気の法廷」の証人席に立たされている。
一体に、精神病院で自分が精神病でない、「正常な人間」であることをどう証明すればよいのでしょう?
それが出来ないこと、証明不可能であることは、「正常な人間」と「精神病者」との間にトポロジー的に同位な関係があることが現れているのではないでしょうか。この逃れられない恐怖が、安部公房がこの小説で作り上げた状況であると思います。

自称火星人とその妻とは、一方が「正気」なら他方は「精神病」で、二律背反のように思わされてきた。だが「自分も火星人でないという証拠はどこにもない」と言ってしまったとたん、二人は「先生は、火星人なのよ」「ぼくらの友達さ」と一致し、ぼくは狭窄衣にからめとられる。そして「地球病にかかった火星人」として浴室から火星に送られたのである。
送られた精神病院は「火星の精神病院である」。32人の先に地球に送られた火星人の一人として「地球病」にかかったまま火星に送られたのだ。
この精神病院を地球のものと思っている人は、真の恐怖に近づけない。地球の精神病院でも「正常」であることを証明するのは困難である。まして火星の精神病院では、主人公は何と言明すればよいのでしょう?
怖いのは、そこが地球なのか火星なのか、知らされていないことにもある。彼は地球の病院だと思って弁明を試みるが、受け入れられない。そのうちに「火星なのでは?」と疑い始める。そうするとどういうことになるのであろうか?何と答えればよいのだろう?ここでも二律背反に陥って答えることは不可能なのだ。
「自分は人間だ」と言いつのればそれは「地球病にかかった火星人」と見なされ、解放されない。かといって「自分は火星人だ」と偽って答えることが出来るのか?

「いまあなたが立っている、その場所は、はたして実話の世界なのでしょうか、それとも、寓話の世界なのでしょうか・・・」と最後の問いがある。「実話の世界」に生きる人にとっては、このお話はせいぜい寓話でしかない。「寓話の世界」に生きると思う人は、この小説は抜け出すことのできない実話である。

この小説の現代的意義については、まず近頃一部で猛り狂っているレイシストたちが、非難する人種・民族への差異を明らかにすることがトポロジー的に不可能であることを示している。「火星人」は「人間」との差異として「両目の間が開きすぎている」ということしか示されない。これは区別する基準として十分ではない。むしろトポロジー的には同位(ホモロジー)であることを示している。人種・民族もすべて「人間」としてトポロジー的に同位であることは明らかである。
また現代の「精神病院」の意義がその根拠を揺るがされているのも、読書会で報告された「東日本大震災で明らかになった精神病院の入院不要な患者の発見」にも示される通りである。患者の側から見た精神科医療の問題点については、読書会に来られたことのある白井京月さんのブログ記事があります。http://blog.livedoor.jp/mds25/archives/23174460.html

戻って考えると、「正常」と「精神病」は二項対立ではない。それは単にどちらが正常でどちらが精神病か、または精神病から見ればこちらが正常で正常者が異常である、とかいう問題ではなく、「正常≒精神病」という関係性の表現でしかないのではないかと思います。
 
 
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