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『人間そっくり』と狂気の法廷

 投稿者:嘘月まこと  投稿日:2018年 3月26日(月)02時19分58秒
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  こんにちは。「笑う月」読書会などに参加しました、まことです。今回の読書会は都合がつかず、参加できませんでした。
今回とりあげた作品、『人間そっくり』について、割と参加者の方々からは不評だったということを目にして、その理由はなぜなのか、気になっていたので、自分なりに掘り下げてみようと思いました。

欠席代わりといってはなんですが、ここの掲示板に感想を書こうと思います。


さっそくですが、僕はこの小説の主題をあえて挙げるとしたら「共犯関係」なのではないかと思いました。
この作品の軸となるテーマ(作者に言わせてみれば、それは作品の後から出てきたものにすぎないもの)が「トポロジー」であることは、登場人物の台詞からも再三ヒントのように説明されているため、言うまでもない事でしょう。

僕が注目したのは、「この話におけるトポロジーはなぜ成立しているのだろう?」という点です。
ある位相と別の位相が本来つながるはずのない地点から反転して結びつくというトポロジーが成立するためには、登場人物同士の思惑が二律背反的である必要があると思います。あえてこの部分を強調しておき、主人公と自称火星人の男のやりとりを哲学的な「信念」を導入して読み込んでみると、トポロジーの外殻が分かると思います。

①主人公は自身を「人間=地球人である」ことを疑わず、それを信念としている。
②その一方で、自称火星人の男は、自分が「火星人であること」を信念としている。

ここで重要なのは、「男が正真正銘の火星人」かどうかの議論はどうでもよくて、
「異なる信念を持つものが2人存在している」ことに目を向ける必要があると思います。
加えて、このトポロジーを難解(らしく)見せている要因として、冒頭での主人公の独白が重要になってきます。
主人公は冒頭で、読者(「あなた」)に向け、2回にわけて懇願をしています。
初めは、

(1)(……どうかあなたが、(中略)≪人間)であってくれますように!)

と、「あなた」へ向けて語りかけています。

その後続けて、

(2)(……だからと言って、(中略)ぼくと同類の存在であってくれますように!)

と、先ほどの≪人間≫であることの証明不可能性を「あなた」へ向けて投げかけています。
この2つの懇願によって、実は読者(あなた)は、主人公の平行線(あるいは狂気の法廷)の論理に参加させられてしまう、二重のトポロジーのワナが仕掛けられていると解釈しました。
①と②が虚構内のアポステリオリ(後天的)な平行線であるとするなら、(1)と(2)はアプリオリ(先天的)な平行線を呼び起こす「まくら」として、読者と主人公の間でお互いが≪人間≫としての信念を持っていることを暗黙の内に了解させています。

おそらく、この作品に対する不評の要因は、この「2つの懇願」の部分だと僕は思いました。
「火星人なんか存在しない」という信念は、確実性を問い直す前にグーグルでわかる(かのように)強固な内在的条件として現在の私たちは環境が整備されている。
言いかえると、それほど私たちは現実を自分で論理的に問い直さなくとも、信念として持つようになった、ある意味では不信を不信として発見できない時代になったとも言えるでしょう。(いちおうですが、僕は別に「火星人が存在する」というオカルトを擁護しようとしているわけではないです(笑)。)

僕はこの作品のテーマを「共犯関係」だと解釈しました。
2人の人物が異なる信念を持つがゆえに、「共犯関係」が成り立つだろうか。
「共犯関係」が成り立つには、お互いが犯行内容を理解していなければならない。
【10】の終盤で、男が主人公のために考えたペンネーム「甲田申由」が真ん中を二つ折りにした際に、ぴったり一致するというのは象徴的です。(山口果林さんのお名前のエピソードを思い出します。)
読者から見れば、主人公は完全に狂人によってどこかへ連れ去られた被害者に見えますが、主人公は自身も気がつかぬうちに、「人間そっくり」という論証不可能な詭弁を作り上げてしまったという点において、トポロジカルな共犯者に陥ってしまったのではないでしょうか。

ちなみに、野暮な読み方ですが、個人的に「自称火星人の男」は普通の人間(ただし狂人)であると思って読んでいました。主人公から何度も「やっぱりただの人間じゃないか!」と呆れられると、極度に暴力性を発揮したり、殺気を漲らせたりすることから、彼は「(不信の時代の)人間として自分が断定されることを恐れていた」のではないかと感じました。おそらく、それが狂人の彼にとってのトポロジーな狂気の法廷に立たされる道だったのではないでしょうか。

読書会で奥さんの対応が実は正解なのでは、という指摘がありましたがあの部分は僕も本当にそうだと思い、笑ってしまいました。
 
 
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